今回は、近年大きな進歩があった、スルホンアミド(スルホニルイミド)系電解質、イオン液体を使用した電解液、および水系電解液について説明します。, 2000年頃から、リチウムスルホンアミド(スルホニルアミド、スルホニルイミドなどとも呼ばれます)、特にフッ素原子を含むスルホンアミドはリチウムイオン二次電池の電解質として検討されてきました。, リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)アミドLi(CF3CF2SO2)2N(LiBETA,LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドLi(CF3SO2)2N(LiTFSA,LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミドLi(FSO2)N(LiFSA,LiFSI)などです。, スルホンアミド系電解質とLiPF6を比較すると、大まかには、電気導電率は少し低い程度であり、耐酸化性はほぼ同程度です。大きな相違点は、耐加水分解性および熱安定性が向上することです。, しかし、カーボン系負極活物質とコバルト酸リチウムなど遷移金属酸化物系正極活物質からなる、一般的な~4V級リチウムイオン電池(エチレンカーボネートEC/ジメチルカーボネートなど鎖状カーボネート=1/1、電解質濃度1M)に使用した場合、~10回程度しか充放電サイクルを回せませんでした。スルホンアミド系電解質では、正極集電体であるアルミニウムの腐食(酸化、溶解)が進行するためです。, その原因は、LiPF6とは異なり、不完全な不働態被膜しか形成されない(特にLiTFSA,LiFSA)という点にあります。LiPF6では、微量の水分により発生するフッ化水素に由来するフッ化アルミニウムなどが不働態被膜を形成し、アルミニウムの腐食を抑制します。, ところが、電解質濃度を高濃度(2~5M)にすると、LiPF6を使用した場合より充放電サイクル特性やレート特性が改善することが判明しました。, 電解質濃度が1M以下の場合より電池特性が良好であること、LiPF6では必須であったECが無添加でも(ニトリル系溶媒やエーテル系溶媒単独でも)安定して電池を作動できます。LiPF6/EC系とは全く相違しています。, スルホン系アミド電解液で問題となっていたアルミニウム正極集電体の腐食も抑制されます。, 負極活物質上に形成されるSEIは、高濃度のFSAアニオンに由来(還元分解物など)する物質で構成され、LiPF6-EC系における溶媒由来のものとは異なるもので、SEI層の厚さも薄いものでした。, 上記の高濃度効果とも呼べる結果は、実験および計算によるシミュレーションから、以下のように説明されています。, 低濃度電解液では、Liカチオンは溶媒分子のみが配位した状態で存在します(溶媒和)。 電解液の不燃化あるいは難燃化へのアプローチのひとつがイオン液体の使用です。, イオン液体とは、イオン(アニオン、カチオン)のみからなり、常温常圧で液体の化合物です。 PROGRAM D会場 Room D 第1日 11月18日 1st day, Nov.18 [リチウムイオン電池(電解液)] 9:00-10:15 録画講演 1D01 濃厚スルホラン電解液を適用した疑似固体電池のイオンダイナミクスと電池 … 寿命化を検討するうえで重要な項目の1つとなっています。当社ではリチウムイオン電池の電極中水分量測定を大気非暴露下で実施いたします。 また、溶媒和していないフリーの溶媒分子が多数存在します。, 高濃度になると、Li対アニオンがいろいろな形で配位したクラスター(溶媒、対イオンなどが配位した状態)が出現し、フリーの溶媒分子は減少します。, 負極活物質上では、溶媒分子の還元分解より、配位した対アニオンの還元分解が優先してきます。対アニオンに由来するSEIが主体となり、溶媒分子との接触を抑制します。 実用化されている電池では、溶媒は水系ではなく有機溶剤系が使用されています。 これは下図のよう、有機溶媒は水系溶媒と比べて、電位窓(分解されずに安定して使用できる電位の範囲)が広いからです。 リチウムイオン電池では使用している3V~4V付近と他の電池と比べて高い電圧で動作します、 そのため、高い作動電圧に耐えられる電解液でないと分解されて、電池として機能しなくなります。これがリチウムイオン電池の溶媒に有機溶媒が使用されている理由です。 特に、正極にて充電時に酸化反 … 溶媒やLi対アニオンの種類は、Liカチオンに対する配位力の差異として現れます。 こるため劣化の要因を分析する上で非常に重要な要素です。 3分でわかる技術の超キホン リチウムイオン電池の電解液② スルホンアミド系、イオン液体、水系, 2021年1月15日(金) or 1月18日(月) 10:00~17:00(両日とも同内容), 基礎からわかる、全固体二次電池 ~仕組み、課題、研究動向まで~ 【最新動向と粒界・界面抵抗の考え方、イオン伝導性の向上】【提携セミナー】, 真に機能的なバッテリーマネジメントシステムの構築に役立つ リチウムイオン二次電池特性の測定・評価・推定法【提携セミナー】, EV用リチウムイオン電池のリユース・リサイクル技術とビジネスチャンス【提携セミナー】, 【生産技術のツボ】工程能力の計算方法と評価方法がこれでわかる!両側規格と片側規格の計算事例. ®ã¯ã‚りますが、可燃性です。また、毒性もゼロではありません。 特定のイオン液体を使用すると、溶媒や添加剤を加えずに、十分な充放電サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池(カーボン負極活物質)となることが判明しました。, 代表例が、下記のFSAアニオンとイミダゾリウムカチオン(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム)からなるイオン液体(EMImFSA;25℃粘度17 mPa・s、25℃電気伝導率16.5 mS/cm)です。 ステム、に適用できます。 リチウムイオン電池負(中文は負極と書いてある)極用の水性接着剤の主な機能は、主成分間の結合機能を作ることで … 水や酸素に対して安定な化合物も多数見つかっています。, 一般的なイオン性結晶(塩)とは異なり融点が低く(融点が常温以下なので、常温溶融塩とも呼ばれる)、幅広い温度域で液状を保つ、蒸気圧がほとんどない、難燃性である温度域が広い、有機溶媒と比較して電気導電性が高いなどの特徴を持っており、以前から電解質の非水媒体として研究されてきました。 しかし、水の電位窓が狭いので、一般的な~4V級のリチウムイオン二次電池では分解され使えませんでした。, 近年、水、リチウムスルホンアミド、および異なる複数のリチウム塩を特定の割合で混合すると、共晶により融点が下がり、常温で液体の常温溶融水和物(ハイドレートメルト)となることが発見されました。一種のイオン液体です。, 例えば、LiTFSA0.7mol/LiBETA0.3mol/水2molの組成からなるハイドレートメルトです。 イオンを十分流しさえすれば(現在使われている電解液は十分にリチウムイオンを流すと考えられている)、電池自体のエネルギーの貯蔵能には直接数字として影響しないので、少し前までは(個人的には)ちょっと日陰な感じもする材料であった。 何らかの原因で電池の温度が上昇すると、火災や爆発を起こすリスクがあります。 実験および計算によるシミュレーションから、ハイドレートメルトでは全ての水分子がLiカチオンに配位している(フリーの水分子が存在しない)ことが判明しています。 LIBから採取した電解液について、下表の分析メニューから電解液の組成を明らかにすることが可能である。, 長期使用セルの電解液から検出された成分は、GC, GC/MS(EI, CI)測定結果から、リン酸エステルならびに鎖状カーボネートがそれぞれ推定された。 変性物と推定された鎖状カーボネートは溶剤そのものの変性物、一方のリン酸エステルは、LiPF6の酸化によって生成したリン酸(もしくはリン酸塩)とDECなどのカーボネートとのエステル交換反応によって生成した変性物と考えられた。, リチウムイオン電池(LIB)に使用されている電解液は、一般的にプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネートとジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネートとの混合溶媒であり、電解質としてLiPF, 【構造解析】固体核磁気共鳴法(Solid-State Nuclear Magnetic Resonance:NMR), 【有機分析】ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)ガスクロマトグラフィー/質量分析(Gas Chromatography/Mass Spectrometry:GC/MS). もっとも普及しているコイン型リチウム(cr系)一次電池は正極に二酸化マンガン、負極にリチウムを使用している。 役)が、電解質に固体を使った厚さ約0.2ミリの超薄型リチウム固体電池を開発した。 従来のリチウムイオン電池は電解質に引火性のある有機溶媒の液体を使っているが、固体に置き換えたことで液漏れや発火の恐れがなくなった。 電解液に水溶液を採用してより安全性を高めた水系 リチウムイオン二次電池 High-Safety Aqueous Lithium-Ion Rechargeable Battery with Incombustible Aqueous Electrolyte Solvent 関 隼人 SEKI Hayato 松野 真輔 MATSUNO Shinsuke 高見 則雄 TAKAMI Norio リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池は、負極にリチウムイオンを吸蔵する炭素等を使った二次電池であるため、リチウム電池とは区別される。. 上記のハイドレートメルトを電解質として使用した2.4V級、および3.1 V級リチウムイオン二次電池では安定した作動が確認されています。, 3分でわかる技術の超キホン リチウムイオン電池のセパレータ・要点まとめ解説(多孔質膜/不織布), これまで当連載では、リチウムイオン電池の正極材料、負極材料、電解液について説明しました。 今回は、主要構成材料として残っている「セパレータ」について説明します。 目次1.セパレータとは?2.セパレータの要求 …, 3分でわかる技術の超キホン 固体電解質との界面構造の制御(リチウムイオン電池の基礎知識), 目次イオンの移動と界面抵抗界面抵抗の課題と制御方法1.エアロゾルデポジション法2.硫化物系固体電解質の酸化物系固体電解質による表面改質3.可塑性電解質による表面改質4.単結晶の使用 イオンの移動と界面抵抗 …, 3分でわかる技術の超キホン ガラス/ガラスセラミックスの無機固体電解質とリチウムイオン電池, 今回は、ガラス、あるいはガラスセラミックスのリチウムイオン伝導性無機固体電解質について説明します。 ガラスは非晶質ですが、局所的な周期構造と(X線回折では、結晶特有なシャープなピークは観察されずブロードなパ …, リチウムイオン電池に関する当連載では、「真性高分子固体電解質」「高分子ゲル電解質」と、2回にわたって有機高分子系の固体電解質について説明しました。 今回は、代表的なもうひとつのタイプの固体電解質である無機固 …, リチウムイオン電池に関する前回のコラム「真性高分子固体電解質とリチウムイオン電池」では、有機高分子系イオン伝導性物質と電解質塩からなり、溶媒を全く含まない真性高分子固体電解質について説明しました。 実用的な …, 電解質を溶解してイオンに解離し、移動できる物質を「イオン伝導性物質」と呼びます。 また、イオンが溶解したイオン伝導性物質が常温常圧で固体の場合、固溶体などとして溶解し電気伝導性を示す物質を「固体電解質」と呼 …, 開催日時 2021年1月15日(金) or 1月18日(月) 10:00~17:00(両日とも同内容). 現在市販されているリチウムイオン電池の電解液には,電 解質 塩にLiPF6が 主に使用されている。LiPF6を 溶解した電解液は イオン伝導度は高いが,熱 的に不安定で,ま た微量の水分で加水 分解しやすいため,特 に高温下での電池寿命に問題が生じる。 3)電池が液もれしたら火気から遠ざける リチウムイオン二次電池が液もれしたり、異臭がする時には、直ちに火気より遠ざけてください。もれた電解液に引火し、破裂、発火する原因になります。 水系リチウムイオン電池は、0℃以下の低温だと電解液の水が凍結してしまい充放電できなくなることも課題になっていた。 新たに開発した水系リチウムイオン電池は、この課題も解決しており、-30℃の環境下でも安定して充放電が行える。 LiTFSA(LiFSA)/EMImFSA電解液では、通常使用される1M LiPF6/(EC+DEC)電解液と同等の充放電サイクル特性と、それを超えるハイレート放電特性が確認されています。, 一方、TFSAアニオンとイミダゾリウムカチオンからなるイオン液体(EMImTFSA;25℃粘度45.9mPa・s、25℃電気伝導率8.4mS/cm)では粘度が高すぎてサイクルを回せません。, 電解液の不燃化に対する他のアプローチは水媒質を使用することです。 (PF6–<TFSA–、FSA–;CH3CN<EC), なお、LiTFSAとLiFSAを比較すると、電池特性はLiFSA電解質のほうが優れています。 概要. Copyright © 2020 アイアール技術者教育研究所. 電解液は空気中の水分に触れるとLiPF 6 が分解してHFを生成し、品質劣化するためである。 第2に、開封後は、なるべく早めに使い切ることを推奨する。 溶媒の還元分解により形成されるSEIとは異なり、充放電サイクルを繰り返しても、SEI層の厚さの増大を抑制することができます。SEIの形成に対する溶媒の関与がほとんどないため、ECを含まなくとも安定して電池を作動できることになります。, リチウムイオンクラスターは、溶媒やLi対アニオンの種類、濃度、温度などにより変化します。 合溶媒、電解質としてlipf6などのリチウム塩で構成されている。libの電解液について、下表の分析メニューから組成を明らかにすることができる。 ¥ç¨‹ 電解液の材料化学 リチウムイオン電池の塩にLiPF6が使用されている理由 リチウムイオン含有結晶(リチウム塩)と媒質からなる溶液・分散系の電解液が、多くのリチウムイオン二次電池で使用されています。 結晶相と液相の間に、どちらにも属さない中間相が安定に存在する物 … All Rights Reserved. FSAアニオンがTFSAアニオンより、Liに対する配位力が少し弱いこと、およびLiFSAではSEIにLiFなどフッ化物ドナーが多く含まれていることが関係しているとされています。, LiFSAを中心に、溶媒、複数の電解質の組合せ、添加物などの検討が進み、新たな電解液の提案が活発です。, これまで説明してきたリチウムイオン二次電池の電解質は、媒質として有機溶媒を使用しています。, 程度の差はありますが、可燃性です。また、毒性もゼロではありません。